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もはや芸術論ですらない奇妙なエッセイ「野原」(『見るということ』所収) のなかで、美術批評家ジョン・バージャーは次のように述べている。 最初の出来事は過度に劇的であるべきではない。 この「出来事」なる経験が到来する光景としてバージャーが用いるの…

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以前、ヌメ革の革靴の手入れについてなんか書いた。 solitudeandsilence.hatenablog.com 上の通り、harferlには乳化性クリームをたまに塗っていたのだが、最近どうも粉を拭いたように白っぽくなってきていた。なぜ? 長年に渡り乾燥肌とアトピーに苦しんでき…

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ここ2年くらいまじめに服を買ってきたわけだが、近ごろ、もとより人と同じ服装がしたいわけでもないし、かといって独力でいけるほど知識と経験が足りているわけでもなく、服の着方やいわゆるスタイリング的なことで行き詰まりを感じつつある。身近にこういっ…

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少し前、かなり久しぶりに平日の朝に京阪に乗ると、車内が中年男性の油臭ささでフルチャージされており、とにかく辟易した。 というわけで、香水やらボディオイルやらが視野に入り始めている。 俺は一応、まともにシャワーを浴び、まともに保湿をし、まとも…

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京都のとある小学校におけるプール死亡事故を扱った (ある種の) ルポルタージュ『遠い声を探して──学校事故をめぐる〈同行者〉たちの記録』のなかで、著者の石井美保は、事故の再現検証に亡くなった児童Hの「代役」として参加したMとその母親との会話を以下…

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以前、俺はTrippenのHaferlを購入した。 solitudeandsilence.hatenablog.com この記事の末尾で俺はこのように述べた。 よくいわれるように「どこまでも歩いて行ける」かどうかは知らないが、少なくともその場に立っていることはできる。 そんな感じだ。 どん…

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「好きなカバンは?」 「ササフラスのフォールリーフコートです」 俺はカバンが嫌いである。 両手になにも持ちたくない。「ポッケ」(羽海野チカ的語彙)にスマホと財布とハンカチだけ入れて行動したい。 しかしそうはいってもまともな育ちをした常識人はポケ…

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「母探し」の物語である『海辺のカフカ』の終盤において、主人公の少年「田村カフカ」(=「僕」) の分身「カラスと呼ばれる少年」は、"父殺し、母と姉との姦通"という三つの予言を成就してもなお「恐怖も怒りも不安感」から逃れられない田村カフカに、「ほん…

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『ちぐはぐな身体』において、川久保玲や三宅一生の服による性的同一性の「ずらし」に触れながら、鷲田清一は、脱線として、いわゆる「変態」がなぜ男性にばかり見受けられるのかと問い、以下のような仮説を提示している。 ……ぼくらの身体はその可視性の点で…

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Tシャツを探している。 夏でも長袖のシャツを着る (腕が細いため)。その下に着るちょうどいいTシャツがほしい。 いまのところTシャツというのはもっとも俺の乗り気ではない衣類のひとつであり、そもそもお金をかけたくない。にもかかわらず、ここ2~3年、…

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一昨年の夏だったか、素足にビルケンのチューリッヒでグランフロントを歩いていたら女子大生っぽい人にすれ違いざまに「ビルケン素足で履いてる人はじめてみたw」と辻斬りされて俺はめちゃめちゃ動揺してそのまま6階の紀伊國屋まであがって講談社学術文庫が…

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ジョン・ロックは『人間悟性論』のなかで次のような例を持ち出しており、俺は勝手に感動して、よくわからない文章を書いている。 Simple ideas wouldn’t be convicted of falsity if through the different structure of our sense-organs it happened that …

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いつの間にやら今年も俺の誕生日が近い。 (筆者註: 俺は1994年6月3日生まれです) とはいえ俺の誕生日はじつのところどうでもいいので、時計の針を89年と352日戻す。 1904年6日16日といえば「ブルームの日」であって要するに『ユリシーズ』の日だが、その第1…

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BBC製作のシットコム『The Office』のシーズン1最終話で、製紙会社ウェーナム・ホッグのスラウ支社長デイヴィッド・ブレントは、かねてから人員削減を迫られていたので、フォークリフト乗りのアレックスのクビを切ることにする。 www.youtube.com 上のクリッ…

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三日ほどはじめて韓国に行ってきた。 俺は帰化人なのでシンプルに因縁浅からぬ国ではある。 ↑ 透き通るような心を持つ者にはピラニアがみえるという清渓川 とはいえ柳美里に倣い民族的アイデンティティを「無」としている俺なので、正直なところ渡韓にあたり…

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十日ほど前、梅干しからソ連軍のスリーピングシャツをもらった。 肩が入らなかったらしい。 ソ連軍スリーピングシャツには秋冬用と春夏用の二種類があるらしい。これは薄手のV字ヘンリーネックなので夏用だと思う。 誰かがデッドストックで購入→梅干し→俺と…

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前回 ↓ solitudeandsilence.hatenablog.com 『たらちねパラドクス』 (塀) の結末で、留学へ旅立とうとする女子高校生あかしは、わけあってともに高校生の同級生として時間を過ごした母すだちに、一緒に高校を卒業できないことを謝罪する。 わけあって生んだ…

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いろいろ考えて、Aラインのシルエットがいちばん「耐えられる」な、と感じている。 身長175cm 体重58kg 肩幅狭めという体型で生きてきた。ふつうにすべてジャストサイズで着ると直線的なイメージが強すぎてしまう。それもドーリア式の柱のように力強いもので…

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前回 ↓ solitudeandsilence.hatenablog.com 『荘子の哲学』(中島隆博)によれば、「荘子」のテクストには「根源的なオラリテ」が響き渡っている。「道」が明らかにされたところでは「吹く風の音」も「鳥の鳴き声」も「人の声」もともに連絡しあい、お互いを可…

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先日購入したTrippenのHarferlは公式サイトによると「ベジタブルタンニンなめしのカーフレザー」を使用している。そこで、問いは以下のようになる。 「ベジタブルタンニンなめしのカーフレザーを使用している」とはどのようなことか。60字以内で説明しなさい…

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中島隆博『思想としての言語』は次のようなエモい文章で終わっている。 おそらく、井筒が救済しようとしている以上に、この世界の衆生であるわたしたちは言語としての秘密に翻弄されて、救済から離れてしまうのだろう。それはほとんど不可避のようにも見える…

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『ドリス・ヴァン・ノッテン ファブリックと花を愛する男』(2016)を観た。ベルギー出身の世界的ファッションデザイナーのドキュメンタリーだ。 この人の洋服はまともに見たこともない。 このデザイナーへの興味というより、なんというか、対象に対して敬意あ…

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先日、革靴を探しているがtrippenはなんか違うと書いた。 その四日後にtrippenを買う。いままでだいたいそのようにして生きてきた。 買ったのはHaferlというモデル。Shoe&Sewnを諦めたわけではないが、実店舗で眺めてみるとこれはこれでぼてっとした感じがと…

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『繕い裁つ人』を読んだ。 仕立て屋「南洋裁店」の店主 南市江の生活と仕事を通じて、洋服と人、あるいは人と人とが織りなす多様でありつつありふれた人生模様を描いた作品だった。日常にやさしい目を向ける作品だったが、中心的な主題である「変化」を扱う…

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ここしばらく革靴を探している。 「俺初心者だからよくわかんねえけどよ」なりの要件は以下の通り。 ・スニーカーの代わりに気軽に履ける ・存在感が強すぎない ・くたびれても味がある 手持ちの革靴だとSANDERSとビルケンのプレーントゥがある。ただどちら…

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高1の春くらいからずっとtwitterをやってきた。13年くらいになる。頭のなかでつねに言葉が生起し続けている類の人間なので、とにかく言葉のはけ口としてtwitterが必要だった。 それにtwitter特有のゆるくつながっている感じもよかったし、情報収集の場として…